審査スタッフとしての「訪問調査」の持つ意義と重要性について考える!
・皆さん、暑いですねえ。夏は暑いのがいいとは思いましたが、ここまで猛暑続きだと少しウンザリします。
・さて、本日も「与信管理」をテーマにした記事を投稿させて頂きます。テーマは、審査スタッフによる「訪問調査」を行う意義&重要性についてです。
・そもそも、訪問調査って何?と思われる方も多いと思いますので、まずはそこから説明します。
・与信管理を行う上で最も重要なポイントは、取引先の実態・実情を知ることです。
・その為の手段として、大きく分けて2つあり、一つは、決算書等の財務諸表に基づく財務分析があります(定量分析)。そしてもう一つが、今回のテーマの「訪問調査」(定性分析)になります。定量分析と定性分析が与信管理の手法の中で両輪になります。
・金融機関や商社の中でも、この訪問調査に審査マンが参加することに消極的な会社様は過去より数多くあることは知っておりますが、敢えてここで申し上げたい。「百聞は一見に如かず」ということを。
・幸運にも、私が在籍していた商社では、比較的この訪問調査へ審査マンが参加することにポジティブで、積極的な姿勢を見せる会社であったこともあり、私自身の30年間に亘る商社マン時代で、国内外を問わず数多くの訪問調査を経験させて頂きました。これは大きな財産となって、今もリスク管理コンサルの活動を行う上で、非常に役に立っております。
・最初にお断り申し上げますが、「訪問調査」という形ではなく、担当の営業部にて、日々お取引先様と電話やメールでコンタクトを取られ、最低でも月1回はお取引様の会社に訪問することは、当然のこととして実施されています。お取引様との関係構築及び深化、並びに定期的な情報交換を積み重ねることで、今後の取引を円滑に遂行していく上で、プラスになることは言うまでもありません。
・他方で、審査スタッフ同行による訪問調査という形での訪問は、上記の営業部単独で実施している訪問とはやや趣を異にしております。
・まず、訪問の頻度は必要性という観点で、営業部が審査スタッフの同行を求めるケースに基本限定されるということです。従い、単発のケースもあれば、半年毎、1年毎というように定期的に実施するケースもあります。
・そして、次にどのようなケースで営業部が審査スタッフの同行を求めてくるかという点ですが、これは営業部としても、明らかにその取引先の信用力について不審感・疑問視している部分がある、ということです。
・このまま取引を継続しても良いのか、取引増額できる先なのか、サイト短縮交渉を申し出て怒られないか、担保取得交渉をして同様に相手を怒らせないか、また決算非公開先であれば、決算内容について何か聞き出してもらえないか、などなど、色々な理由はあります。
・営業部としての立場上、日頃より接しているお取引様に対して、言い出しにくいことや聞きにくいことは、実際にはあるかと思います。
・そのような際に、社内での役割分担として、審査部を表面上「悪者」扱いにして、その悪者に敢えて切り出してもらうという手順が訪問調査だと認識しております。これは極めて合理的な手法であり、会社としては、不測の貸倒を回避・軽減することが最優先事項ですから、その目的を実現する為であれば、上記のような役割分担は非常に明快だと思います。要は、営業部の方々に審査部をうまく活用して頂く、ということです。
・これまでの私自身の数多くの訪問調査の経験から、以下のことが言えるかと思っています。
・それは、決算や財務内容について少し突っ込んだ質問をしたり、きちんと理由を説明した上で決算書の提示を正式に求めた場合に、強烈なネガティブな反応を示すお取引先様に関しては、例えば10社中8社以上は、自社の決算に自信がない、あるいは粉飾決算とは言わないまでも色々と節税対策に勤しんでいる可能性が高いということです。誰でも、あまり触れて欲しくない部分をしつこく聞かれた場合、感情的な対応になってしまうことはありますよね。それと一緒です。
・他方で、あまりにも、従順かつ丁寧過ぎて、こちら側の要請を受諾し、必要以上に書類を提示してくる会社にも一定の注意が必要です。何か裏があるのではないかと勘繰りたくなります。
・つまり、審査スタッフの訪問調査の意義は、何よりも、会社の雰囲気を肌で感じ取ることができる貴重な機会に遭遇することにあります。
・例えば、客先の会社内に入った時、名刺交換をした時、社長や経営陣の方々と直接お話した時、事務所内で働く従業員の働く姿勢を目にした時、倉庫や工場内を見学した時、などなど、色々と直感的に感じ取る場面があるのです。
・ドラマ「半沢直樹」でもありましたが、お客様である私達と会社内ですれ違った時に「挨拶」があるかないかは、非常に重要な要素だと思います。後は、良く昔から言われいるのが、社長室の雰囲気や、トイレの清掃具合でしょうか。
・物凄く威勢の良いことばかりほら吹く社長のいる会社に限って、社長室には派手なデザインのゴルフバックが複数置かれていたり、パター練習用の人工芝グリーンが敷かれていたり、置物や飾り物も豪華絢爛で、実務のニオイが一切しない空間であったり、工場や倉庫を見学した時に、下にゴミが多く落ちていたり、物がきちんと保管されていないなど、とにかく清潔感が微塵も感じられない、といったケースがありました。この現象は要注意ですね。
・審査スタッフが訪問する意義として、もう一つ重要な点を挙げるのであれば、その会社の決算書の内容について、質疑応答を含めてきちんとしたやり取りができる会社かどうかを見極める機会になることです。
・これは、決算公開先を前提に話しておりますが、決算内容の理解が何故重要で必要なのかを、営業部ではなく審査スタッフから直接説明する意義は非常に大きいと考えます。
・より良好な取引関係を今後も構築していきたいこと、取引増額の決裁を社内で取得する上で必要不可欠な情報であること、審査スタッフが理解を深めることで社内での決裁のスピードも上がる可能性があること、などを丁寧に説明することも大切な部分です。
・そして、話は振り出しに戻りますが、訪問調査のベストシナリオは、営業部が必要だと感じて審査スタッフの同行を求めるケースの積み重ねにあります。勿論、審査側から事情により要請するケースもあるでしょう。ただその場合でも営業部側の最終的な事前同意が必要であることは言うまでもありません。与信管理は、審査部だけの仕事ではなく、営業部との連携ワークの基に初めて成立するものであると私は確信しているからです。一緒になって、客先の信用度を解明していくという作業、その肝となるのが、今回ご紹介した「訪問調査」という共同作業になります。
・最後に、これはあくまでも個人的な意見になりますが、審査スタッフの方々には、できるだけ訪問調査の実施の機会を数多く持って頂きたいという強い願いがあります。訪問調査の機会を積めば積む程、審査スタッフとしての力量・会社を見る眼が養われ、自分自身が成長していくことを実感できることになるからです。「百聞は一見に如かず」。審査スタッフの方々には、是非とも積極的にアクションを起こし、貴重な現場体験を数多く積み上げていって欲しいと願っております。
リスク管理コンサル:髙見 広行