与信管理における急ぎの案件の落とし穴とは?

皆さん、与信管理の話に限定することなく、以下の諺を耳にされたことはございますよね?

「急いては事を仕損じる」

釈迦に説法ですが、何事もあせると失敗しやすいもので、急ぐ時ほど落ち着いて冷静に行動するべきである、という教訓です。

さて、実は、この諺は、そのまま与信管理の世界でも通用するということをお話します。

私の過去の体験談からお話しますと、営業部から出されている限度申請の審査処理の件に関して、よく督促の要請を受けたことを記憶しております。

以下は、自分が記憶している営業部からのコメント内容です。

「申し訳ないですが、これ急ぎの案件なので、なるべく早く決裁が取れるように書類を回して欲しい。宜しく協力の程お願いします。」

「大事な取引先から強く要請されていて、今般当初の予想より早く取引開始できる見込になったので、優先して審査の処理をして欲しい。」

「今期の予算達成の為にこの取引をとにかく早く実現させたいので、審査処理を優先してお願いします。」

代表的なものを3つ列挙させてもらいましたが、いずれも営業部のその時の置かれた事情に基づき、急ぎの要請が発生していることが理解できます。

審査部署としては、以下の事項を少なくともチェックすることになります。

1)与信先の信用力、2)仕入先の信用力、3)取引ルート全体のチェック、4)仕入先と販売先に対する決済条件から見る資金効率の妥当性、5)取引発生(増額)の理由、6)自社が当該取引を行う意義・将来性、7)採算性

仮に、既存取引の取引増額であっても、増額金額が大きい場合は改めて取引先の信用力をチェックするのが通常の手段であり、ましてや新規先ともなれば、例え相手先が上場企業の有力先であっても慎重な精査が必要になってきます。

即ち、急ぎであろうとなかろうと、審査部署の行うべき業務は基本変わることなく、基本に忠実に業務を遂行することになります。

そこに、営業部からの急ぎの要請が加わると、本来行うべき審査業務の一部を省略・割愛したりすることに繋がりかねず、後々後悔することになることが多いのです。

「やっぱりきちんと全てチェックを行っておけばこんなことにはならなかった。」

「キッパリと営業部にそのスピードでは決裁取得は難しいことを伝えるべきであった。」

などなど、私自身も何度か後悔の念に駆られたことがありました。

急ぎの案件の落とし穴とは、まさに営業部にしても、審査部署にしても、社内でのリスク管理上のチェックが生煮えになることを意味しております。

納得のできる特別な事情や要因に基づく急ぎの申請であれば、ケースによっては急ぎで回議することもあるかもしれませんが、基本的には、やはり一度踏み止まって冷静に考え直す、冷めた目が必要であることは言うまでもありません。

私が過去に海外駐在した折の、組織上の上司に当たるCFAOの方は、急ぎの案件だからと言って、常に頑として、書類を何も見ずにそのまま決裁の判を押すことは決してありませんでした。そして、何故急ぎなのか?審査部署に対しても、その理由や要因をきちんとチェックせよ、と言う御達しがありました。

最後に矛盾するようですが、与信管理上の審査業務には、一定のスピード感も求められます。そして、メリハリの効いた書類上の処理業務も必要になってきます。ただ、生煮えの状態で上席に回議することだけは、絶対にやってはいけないことだと考えています。

自分の腹に嵌るかどうか、それが審査業務の生命線でもあります。

「急いては事を仕損じる」

改めて心に響く諺であることを痛感します。

急ぎの案件にはどうかご注意を。そして営業部の意向だけに流されないように、常に強い意志を持って審査業務に当たって頂けたら幸いです。

与信管理コンサル 髙見 広行

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