ロンドン駐在時代のエピソード【「ギリシャ」という国に対して抱く幻想と債権回収交渉の現実(その1)】

皆さん、今日は久々にリスク管理コンサルに関する投稿をさせて頂きます。

今回から続けて3回物シリーズで、欧州の夏のリゾート地のイメージが強い「ギリシャ」を取り上げさせて頂きます。

私がかつて英国のロンドンに駐在していた時代に出会した、ある債権回収に関するエピソードを皆さまに披露させて頂きます。宜しくお願いします。

さて今から遡ること、1999年4月から2003年3月までの4年間に亘り、私は人生で初めて貴重な海外駐在生活というものを経験させて頂きました。

妻帯同の上での海外生活、お世辞にも上手いとは言えないこの英語力で本当に現地での仕事と生活の両立が果たせるのか、正直不安で仕方なかったことを覚えています。

現地欧州会社のヘッドクォーターのあるロンドンで、審査部に配属され、Managerというタイトルも頂きました。所謂課長であり、配下に英国人のナショナルスタッフを数人抱えるライン長に当たる重たい役職です。上司の部長は海外駐在ベテランの日本人の方で以前より面識のある方がおられて、その点だけは安心だったのですが、果たして自分が海外の地で日本でもやったことのない課長職を務めることができるのか、大きなプレッシャーに感じていました。

今でも、会社や親戚関係の方々に見送られて、成田空港を英国航空(British Airways)で飛び立つ時の場面の映像が脳裏に蘇ってきます。とにかく物凄い緊張感に包まれてたことを記憶しています。何か得体の知れない未知の世界に足を踏み入れるということに対して、不安で堪らなかった自分がそこにいました。

そんなまだ30代前半のロンドン駐在時代において、公私に亘り、いい意味でも悪い意味でも沢山の思い出が残っていますが、やはり何と言っても、審査業務の中で絶対に忘れられない記憶がそこにありました。今日はその代表的なエピソードの一つをお伝えします。

それは、あの有名な古代文明の地、そしてオリンピック発祥の地としても名高い、ギリシアという国に纏わる件になります。その時抱いていた私個人のギリシアという国に対する印象ですが、何となく長閑な雰囲気が流れていて、綺麗なエーゲ海の映像とクルーズ船での優雅な旅を想像してしまいます。いずれにしても、リフレッシュ、リラックスするには最適の国のように思えました。

前職の総合商社の非鉄部隊では、南米ベネズエラの国営会社から年間契約ベースで纏まったロットのアルミニウム(インゴット&ビレット)を購入する契約を締結しておりました。融資の見返りに実物の物で返済を受けるようなスキームであったと記憶しております。所謂「融資買鉱」という形態に近いスキームです。そして、その購入するアルミの販売先として選ばれた場所・国が欧州のギリシャ市場だったのです。

私はロンドンでの駐在が開始して以降、今まで人生で行ったことがない欧州各国を訪れる機会に数多く恵まれましたが、ギリシャもその一つに加わることになりました。旅行では、一度はクルーズ船ツアーみたいなものに参加して行ってみたいとは思っていたのですが、中々機会に恵まれず、そこにいきなり降って湧いて出てきたのが、ロンドン店の非鉄部隊からの現地への出張要請でした。喜んでいいのか、悲しむべきなのか、複雑な気持ちで一杯でしたが、憧れ?のギリシャに行くことができるかと思うと、いきなりテンションが上がり、何故かパルテノン神殿の映像が頭に浮かんできたことを覚えております。

欧州会社内で、毎月売掛金の滞留状況のチェックを行なっていると、いつも延滞先の常連メンバーとして登場してくるのが、ギリシャ国内のアルミビジネスの販売先群だったのです。現地の客先数は合計で10社から15社程度あったでしょうか? 裏付としては、当然、信用保険のお膝元の欧州ですので、原則全ての取引先に信用保険を契約上満額付保していたことを付け加えさせて頂きます。次回以降に後述しますが、これがある意味取引拡大に繋がった要因でもありますが、「信用保険の功罪」を実体験として強く認識する事例になりました。

その中で、特に支払いマナーの悪い代表的な客先が3社程あったと記憶しています。どれも延滞の度合い・頻度もそして延滞金額も非常に大きい先でした。いずれ、この状態が継続する限り、ギリシャへ債権回収交渉に行くことになる予感は肌で感じておりましたが、実際に訪問が現実となると、自ずと緊張感に包まれてきました。一体、ギリシャってどんな国なんだろう?そしてギリシャ国民というのはどんな気質をされているんだろうか?興味と関心も湧いてきました。

ロンドン駐在当時は、大体、半年に1回の頻度でギリシャ出張があったので、おそらく駐在期間中、4回から5回はギリシャを訪問したことになります。基本的にはいつも非鉄部隊の営業マンと2人で現地を訪れ、現地側にいるエージェント2人の合計4人で、エージェントが運転する車で、客先を訪問していたと思います。

ギリシャの国土は南北に長く、通常空路でアテネから入って、現地起用のエージェントの車で2時間半以上北に行った所に、訪問候補先が1社あったのを覚えています。

何度か目の訪問の時の話ですが、その北側にある延滞先での回収交渉の席上で、発生した出来事をまずご紹介したいと思います。

ギリシャでの面談のスタイルは、大抵相手先から社長ないしは役員待遇の購買部署の責任者1名と担当者1名の2名に加え、その隣に経理課長か総務課長のような管理サイドの人間が1名座るのが通常で客先側3名、当方より2名(営業&審査)と当社起用のエージェント2名がジョインするので当社側は4名となり、結構大所帯での会議になるのが通常です。また、エージェントによりギリシャ語と英語の通訳が必要になる為、面談時間も長期化する傾向があります。

本来、延滞回収交渉の中心になるのは審査側の人間であり、基本、私が攻撃的な回収交渉の為の支払督促の発言をして、営業側がそれを止めに入るスタイルが圧倒的に多かったのですが、その時は、いきなり年上で普段温厚な性格の営業マンの方が、私の横で、その客先の「のらりくらり戦法」の応対に完全にぶちキレたのか、突然手に持っていたボールペンかシャーペンを目の前にある木製の机に突き刺そうとされたのでした。

当然そのボールペンかシャーペンは折れたか、壊れてしまったと思いますが、相手方はその迫力にびっくりしたと思いますが、横に座っていた私自身が一番驚きを覚えました。そして、普段と役回りを変え、私が宥める立場を演じて、営業マンの方を抑えたという出来事です。

ここで、私が個人的に思っている平均的なレベルのギリシャ人の気質について、以下に整理させて頂きます。

1)債務返済に関する支払期日の遵守精神に極めて乏しいこと。要は、ないものは払えない・仕方ないという考え方が蔓延していること。その結果、遅延しても相手に謝らないこと。

2)古代文明の時代から引き継がれる自国の伝統に対するプライドを強く持っていること。

3)支払意思があることを理由に、自社の支払遅延を強引に正当化すると共に、延滞金利の請求さえ堂々と拒絶してくること。

4)時間の流れがゆっくり感じる程、日本人のようにセカセカしておらず、全体的にのんびりと気長に待つ傾向があること。

上述の通り、我々がギリシャ語を話せないことから、英語を使いエージェントを介しての間接的なやり取りになるので、時間が倍以上掛かる上に、更には支払期日に対する考え方・概念が大きく食い違っている状況下で、ストレスが溜まる場面が多く、私も何度も声を荒げてしまうことがありました。また、本当にエージェントが正確に通訳してくれているのかどうか自分では知ることができず、その点もイライラ感を募らせる点だと思います。

勿論、全てのギリシャ人が支払期日に対するマナーに欠如しているとまでは断言するつもりはありませんが、明らかに、私が前職の会社在籍時代に出会ったギリシャの非鉄の取引先様は、会社の規模として中堅クラスが圧倒的に多く、且つ総じて代表一族が経営を仕切るワンマン経営型の会社が多かったと記憶しております。経理・財務担当の人にいくらプッシュしても、最終権限を掌握しているのは社長や一部の役員のみというのが実態でした。

斯様なストレスが蔓延する面談の中で飛び出した、上述した年上の営業マンの方の想定外の行動、アクション、ただ私自身は、個人的には大いに理解できる部分がありました。

さて、次回のギリシャシリーズ第二弾では、私が駐在時代に現地で体験したギリシャ向けの与信管理手法、威力を発揮する債権回収方法について、もう少し具体的に、そして細かく説明させて頂きたいと思います。

リスク管理コンサル 髙見 広行

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