過去にマーケットリスク(市場リスク)の恐ろしさを肌身で痛感する!

さて、今回のテーマは、リスク管理コンサルの立場から、私自身がかつて米国で実体験した話に基づき、与信管理という範疇を超えたところにある「マーケットリスク(市場リスク)」というものについて、少しだけお話をさせて頂きたいと思います。

「リスクマネジメント」と一言で言いましても、極めて広い範囲に亘る言葉であり、正直、私が所属した総合商社業界の中でも、対象範囲が広すぎて絞り切れていなかったように思います。

財務マターの金利・為替リスクや経理マターの税務リスク、更には昨今大きくクローズアップされてきているコンプライアンスリスクまで、本当にリスクという言葉には、フィールドに制約がないように思われます。

私が主に携わってきた与信リスクは、審査部、後にリスクマネジメント部に名称が変更し、そのまま管掌してきました。同時に、歴史的な経緯から非常リスク(所謂カントリーリスク)も管掌しておりました。

ただ、マーケットリスク(市場リスク)に関しては、どこの管理部署が主管するのかは、やや曖昧であったように記憶しています。

そんな中で、米国駐在時の最終局面で出会したある穀物事業会社での事案で、まさに現場サイドで、この「マーケットリスク」に対峙することになりました。

正確に言いますと、与信リスク+カントリーリスク+マーケットリスクの3つのリスクが重なり合っていたような事案でした。

穀物は、米国のシカゴ穀物相場で日々取引されている相場商品であることはご存知の通りです。商品価格は相対で決まるというより、基本的にはこの市場価格に応じて取引されるのが通例です。世の中の需要供給に応じて商品価格が日々決まる世界、これ自体は公明正大であり、取引を行うに当たり安心感が持てる部分でもあります。

今回、ご紹介する事案は、1回の船積みだけで高額に達する穀物商品の三国間取引に該当し、主な仕向地は中国、という事案。対象商品は、シカゴ穀物相場で取引されている商品、しかも決済条件はL/C決済取引です。

これだけでは、ごく一般的というか、普通というか、特に問題のない取引のように見えますよね?

問題点を整理すると、以下の3点であったと考えます。

1)利幅の薄い穀物商品の取引であったがゆえ、利益確保の為、取引・契約数量が膨大であったこと(膨大な契約数量を持っていたこと)

2)当時、仕向地の中国の経済環境が悪化し、中国の金融機関の貸し渋り傾向が顕著に見られ始めていたこと

3)全取引がL/C取引であった為、与信管理上、社内での限度申請の対象外であり、中国の販売先そのものの信用状態について十分な調査が為されていなかったこと

その後、中国の銀行の金融引き締め強化により、中国の取引先からL/Cが船積前にタイムリーに開設されなくなり、出荷が滞ることになりました。

出荷する港での滞船料の負担回避の為、L/C開設前に船積を実行する手段を選択する道を選び、急遽中国の販売先の与信管理が発生(高額の限度申請)することになりました。

ただ、その多くが非上場企業であった為、財務内容が的確に把握できず、相手先の内容がよく分からないまま、中国に船が到着するまでにL/Cが開設されることを祈るという「神頼み的な取引」にならざるを得ませんでした。

そこで、登場してきたのが、マーケットリスク(市場リスク)という概念です。

仮に、中国の客先から現地到着までL/C開設が為されなかったとしても、対象商品はマーケットで取引が行われる相場商品で、いつでも転売可能な商品であり、決して全損になることない。

従い、コスト負担の面を考慮して、船積みを滞らせるより、船積み・出荷をスケジュール通り実行していく方が得策であるというような主張が、まことしやかに為されていたやに聞きました。

その後に起きた事象としては、転売するにしても、結局、こちら側の足元を見られて、相場より大幅にディスカウントされた金額が提示され、已む無く損失発生覚悟で転売せざるを得ないという局面に立たされたこと、それが一隻ならまだしも、同時に一気に10隻規模になると、転売損失額は多額に上る計算となり、社内的にも大きな問題に発展していったということになります。

今回は、本件に纏わる話はここまでとして、一旦この話は留めておきたいと思います。

本件は、マーケットリスク(市場リスク)に大きく踊らされた事案であって、別途、与信リスク・カントリーリスク(*)が複雑に絡む事案では、取り扱い商品が相場商品であるということが、リスクの歯止めには決してならなかったということを、皆さまにまずお伝えしたかったということです。(*一般的には、「中国」をカントリーリスクの高い国であるとはみなしておりませんが、敢えて私はカントリーリスクが高い国であると指摘させて頂きました。)

尚、この後の展開は、また機会を改めて、どこかでご紹介させて頂くつもりです。

Rユニコーンインターナショナル株式会社

代表取締役 髙見 広行

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