同じ系列に2度引っ掛かった教訓事例

皆さん、お元気ですか?

今年のGWは如何お過ごしですか?

さて、今回は、「与信管理」をテーマにして、過去の教訓事例のご紹介をさせて頂きます。

この事案は、入社してまだ間も無い頃の国内での出来事になります。入社して少しキャリアを積み、貸倒案件にも実際に遭遇して、徐々に場数を踏み始めていた頃であったと記憶しています。

今回の事例の「与信先」は、元々私が入社する前から取引が行われていた、都内の比較的業歴の長い、ある呉服・ニット製品・寝具等を取り扱う総合衣料卸との取引を発端にしています。

業績ジリ貧の傾向が顕著であった相手先であり、とりわけ取引の旨みがあるわけでもなく、大きな問題はないので、何となく取引を続けてきた先です。

そして、私の入社2年目の1991年9月にその会社は和議手続の開始を申請し、実質上倒産に至り、私が所属していた会社も焦付きが発生しました。焦付き金額はそれ程大きくはありませんでしたが、担保等での回収はなく、基本全損でした。

ただ、バブル崩壊のこの時期において、この事実だけでは、然程珍しい事案ではないのですが、問題はこの後の推移になります。

その後、この倒産した会社において、「第二会社」を設立する動きが見られ、ニット系のアパレル製品部隊を再興する方向になりました。当然、従前取引のあった私の所属する総合商社の担当営業部隊にも取引再開に応じて欲しいとの声が掛かり、営業部と審査部との間で、社内で協議を持つことになりました。

第二会社設立スキームは、ある意味、倒産後の世界ではよく見られるスキームであり、決して珍しいものではありません。

このスキームの訴えるポイントは、元の倒産した会社の悪い部分である膿を出し切り、綺麗な財政状態で再出発を図る点と、経営者も基本的に若返りが図られ、社内組織もスリム化されて機動性に富む組織に変貌するということだと思います。

本件でも、そのようなメリットを営業部が強く主張し、同時に最も重要な検討ポイントとなる、第二会社ベースでの「新事業計画(向こう3年から5年間)」の内容の吟味になりました。

私は審査部員として、その事業計画を綿密に精査・検証すると共に、新しい経営陣の方々とも面談を持ち、特に悪い印象はなかったので、当時取得できる担保・保証を全て取得することを条件に、最終的に審査として同意する意思表示を行いました。

そして、今回の事例で言えば、その時の決断そのものが、大きな教訓となりました。

今では、第二会社に抱く幻想を強く持ってしまい、その第二会社が手掛ける商品そのものの競争力や商品としての魅力についての検証が不足していたことを痛感しています。営業部のポジティブな説明を、決して鵜呑みにしてはいけないということです。

それに加えて、直前に、一度焦付きを喰らい損失を被っていることを忘れたかのように、第二会社の経営陣の方々の手腕を過信し、軽率に信じてしまったこと、更には、直前に蒙った貸倒損失を取り返すかのような、営業部の強い意気込みと迫力に押されたところもなくはありませんでした。

結局、倒産する会社には、特有の経営者・幹部社員の経営能力の欠如が顕著に見られるということです。勿論、全ての会社がそうだ、ということではありませんが、会社のそれまでの伝統的な文化というものは、そこに所属していた従業員にも染み付いてしまっているように感じます。その時、第二会社の経営者が完全に入れ替えられ、刷新されていたならば、また違った方向に進んだかもしれません。

事の顛末をお伝えすると、結局第二会社との取引再開後、比較的間も無く、その第二会社は資金繰りに破綻をきたすようになり、メインの仕入先として、私の所属する総合商社は色々な形での資金支援を実施しましたが、バブル崩壊後の経済環境下、売上の回復の目処も立たなくなったことから、あえなくその第二会社も倒産するに至りました(自己破産だったと記憶しています)。

本件は、自分自身にとっては、非常に屈辱的な貸倒事案になりました。同じ系列に2度も引っ掛かった事例として、貸倒を蒙った痛み以上に、当時の若手審査マンであった私自身の心の中にも大きな痛手が残りました。

余談ですが、その会社とは、取引開始決定時に、集合物譲渡担保契約を締結(所謂在庫担保を取得)していた関係で、変な第三者により在庫を別の場所に持って行かれないように、その第二会社の倉庫を深夜まで(営業マンは徹夜で)、倉庫のそばの場所に隠れて見張るようなことも行いました。まさに今思えば、刑事のような行動ですね。今となっては、思い出深き出来事です。

因みに、第二会社への貸倒金額も決して高額ではありませんでしたが、無視できない金額であり、元の会社と合算すれば相応の金額に達したことをここでお伝えしておきます。

「第二会社スキームに安易に応じるな」、これが今回の事例より得た教訓でした。

次回も、また具体的な事例を紹介しながら、審査マンの方々に少しでも役立つような情報をお届けできればと考えています。どうぞ、宜しくお願い致します。

Rユニコーンインターナショナル株式会社

代表取締役 髙見 広行

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