今や誰もが知る人気海外スポーツブランドとの遭遇と決別<審査マンとして痛恨の極み 失ったブランド価値を悔やむ>

皆さん、少しご無沙汰しておりました。今年も、5月下旬に差し掛かってきました。

さて、本日は、審査マンをやっていた前職での出来事の内、少しばかり後悔に残っている事例をご紹介させて頂きます。

それは、基本に忠実かつ厳格な審査業務を遂行していたからこそ、ぶち当たってしまった一つの壁となった与信事案だと、個人的には捉えております。

今では、誰もが知っている海外人気スポーツブランドにのし上がっておりますが、少し前までは、まだ一部の人の間でしか知れわたっていなかったマイナーブランドについてのお話です。

過去の経緯は以下の通りです。

上記スポーツブランドを取り扱う日本側の輸入卸会社に対して、新規取引の売り与信申請が営業部より上がって参りました。新規取引の割には比較的アグレッシブな与信金額であったと記憶しております。

営業部からの申し出もあり、審査部署同行の下での訪問調査(決算ヒヤリング調査)を実施し、私も当時審査の担当者として参加しました。

同社は、業歴の浅い、全国の各大学のアメフト部OBで中核人事が占められ、中でも社長は知る人ぞ知る超有名選手であったと記憶しております。そもそも、同社社長がアメフト繋がりで、海外の新興スポーツブランドの製造卸会社の社長と強い繋がりがあり面識があった事が、同社設立のきっかけでありました。非常にプライベート色の強いコネクションではありますが、これがその後、決して無視できない事由になっていくのです。

さて、かつて社長室に通された時に目にしたのは、当時では豪華なゴルフバックが部屋の真ん中に置かており、パター練習用のグリーンもそこにはありました。社長の受け応えは全般的に真剣味に欠け、審査の人間としてはあまり心地良い面談ではありませんでした。決算関係の対応責任者である財務担当役員からの回答内容も今一つであり、正直アマチュア経営集団ではないかと感じたことを覚えています。

決算内容も財務面は脆弱で、将来の事業推進に向けての抵抗力に乏しく、資金繰りも何とか繰り回しができているといった状況で、大手商社からの纏まった金額の与信供与は喉から手が出る程欲しいものだったに違いありません。

ただ、当方の売掛金の回収状況についてもたまに短期間ながら遅れが出たり、正直取引パフォーマンスも芳しくなく、上記で記載した通り、同社経営陣に対する不審感が募り、与信供与に対してネガティブな意見を持ち、問題与信先にも指定していた程で、月次決算を定期的に入手し、定期的な決算ヒヤリングを励行しながら、慎重取引に徹しておりました。

営業部からは、その会社の更なる内容把握の意味を込めて、人員を出向させる等、それなりに本気度を見せて取り組んでおりました。

そして、斯様な状況下で、与信限度枠をもう一段増額する相談が上がってきた際に、社内で喧々諤々の議論を経た後、結果的に、取引増額は断念することになり、人の派遣も引き上げる事になったわけです。

与信管理的には、信用力に相応しくない限度は一切認めないという原理原則の下、その考えに従い、会社は最終的に決断して、当該取引は漸減していき、やがて消失していきました。この結果、本件に関しては貸倒損失の発生に遭うこともなく、表面上、問題与信を未然に防いだ形にはなりました。

しかしながら、今となって顧みた時に、本件を冷静に振り返ってみて、会社として、本当にこの結論で良かったのか?疑問なしとはしません。

その後、そのスポーツアパレルの人気は鰻上りで、日本国内でも人気を博するようになり、あるプロ野球球団とスポンサー契約を結ぶまでに至りました。そして、何よりも我々の取引先であった上記輸入卸業者が、正式に同ブランドの日本側代理店の地位を獲得できるポジションとなり、時を経て、そこに業界内で勢いのあるライバル商社が参入することになり、同ブランドは勝ち組として生き残っていくことになったわけです。

本件は、与信管理の限界の事例として紹介しているのですが、確かに我々は貸倒損失を蒙ることはありませんでしたが、その代償として失ったものも非常に大きかったことを意味しております。

これはあくまでも「タラレバの話」ですが、もしあの時、営業部から与信増額の相談を受けた際に、違う観点・切り口、例えば同ブランドの市場価値を真剣に評価して、近い将来において同社への出資参画の可能性を模索することを前提にして、足許での与信増額を可とする、という結論を出していたとしたら、その後のその営業部の存在感は、社内において、更には市場において、大きくクローズアップされ、様変わりしていたことは間違いありません。

現実的には、審査部署において、営業的なセンスを伴うブランド価値を評価するスキル・能力は持ち合わせておりませんが、それにしても、失った果実は非常に大きかったことを、今でも痛感します。

たまにゴルフをする時にそのブランドのウエアを着る度に、今でも痛切に感じるこの後悔の念。与信管理とは、ケースによっては、斯様な如く、残酷な判断を導くことになることを端的に示した事例を、今回皆さまに紹介させて頂きました。

与信管理コンサル 髙見 広行

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です