ロンドン駐在時代のエピソード【「ギリシャ」という国に対して抱く幻想と債権回収交渉の現実(その3)】

前回の表題その2の投稿から、少し間が空いてしまいました。

与信管理の教訓事例として、過去の実体験をご紹介する投稿になります。舞台は欧州のギリシアです。

今回は、教訓事例として、在庫管理に係る「寄託与信」に纏わる実例紹介を行います。

さて、そもそも「寄託」って何ですか?という質問が飛んできそうですね?その通りです。一般的にはあまり聞き慣れない言葉です。簡単に一言で言えば、「寄託」とは、第三者に自社名義の在庫を保管することを意味します。

与信の種類の中で、代表格なのは「売り与信」であり、販売先に対して発生する売上債権残高を管理することにあります。これは疑いのないところです。従い、焦付発生の大半が、この売上債権が対象になります。

ただ、在庫に纏わる与信事故というのも皆無ではありません。頻度は然程多くはないかもしれませんが、発生した際の損失のインパクトが結構大きいのが特徴です。

過去に私が体験した、ギリシャ向けのアルミ地金の売り商売については、前回まで2回に亘りご説明した通りの概要なのですが、そこに一つ「おまけ」が付きました。

それは、支払い振りの良くない販売先に対して、諸事情により、当方名義の在庫を寄託してしまったという事案。場所は、ギリシャ北部のテッサロニキという港湾都市。我々の販売先が管理する商品置き場の倉庫がそこにあり、当方名義の商品を寄託した事案となります。

何故こんなことが起きたのかと申し上げますと、そもそもその販売先の資金繰りがタイトで、かつ支払い振りのマナーが悪いという信用力のない先に対して、「過大与信」を行なっていたことに原因がありました。

元々取引ボリュームが大きかったことに加えて、そこに売掛金の滞留が発生し、社内で設定した売与信枠に対する使用率が上昇するも、社内では斯様な先に対し売り与信枠の増枠の許可は得られないという中で、営業部から苦肉の策として以下の提案があったのでした。

それは、当社できちんと定期的な在庫管理を行うので、倉庫料の節減の意味も込め、その販売先が保有する倉庫置き場に、短期限定で一時期的に寄託するスキームを選択したいという提案でした。

結論としては、売掛金滞留の督促は継続して行うことは勿論のこと、今後取引ボリュームを減らしていく方向性を打ち出し、その過渡期の施策としてやむを得ないという判断の下、この寄託与信申請が社内で決裁されました。

ここで、易きに流れたのが失敗の原因でした。

短期限定の緊急避難的な意味合いでの施策と捉え、かつ現地エージェントの協力を得て、定期的にその倉庫での実物チェックを実施してもらえることを含めて、コスト節減の趣旨も飲み込み、このスキームに乗っかってしまったというのが実情でした。そもそも、アルミ地金商売の利幅が極めて薄かったことも、大きな背景としてありました。

あの時、心を鬼にして、コスト度外視で、当社が手配する独立した現地の信用の置ける倉庫会社に、当社の在庫を保管すべきことを指導すべきでした。

事の顛末は以下の通り。

1)その後、販売先の管理する倉庫置き場に寄託しての販売が開始し、1週間ないしは2週間に1回の在庫保管状況のチェック・レビューを現地エージェントが励行、その結果報告も何ら問題がなく推移。

2)その後、当方審査部隊も参加した形での訪問調査を実施し、当該倉庫置き場を訪問し、手元の在庫データと一応突き合わせる形で在庫の実査を実施し、概ね問題がないことを確認した。

3)ただ、その時一つ不審に思ったのは、訪問時に、相手方の倉庫内のシステムダウンが発生していることを理由に、コンピューター画面と照合ができなかったことであった。

4)後で振り返れば、納得できるのだが、既にこの時、当社の在庫は勝手にその販売先により引き取られ、換金処分されていたという衝撃的な事実に直面した。

では、実際に我々が訪問した際に目にしたアルミ地金在庫は一体何だったのか?

それは、同じ種類の他の在庫を、当社名義の在庫としてシーリングされたものを見せられただけで、中味が入れ替わっていたということでした。正直、外見からは全く見分けが付かないものであり、品番等でバーコード管理をしていれば、一発で見抜けたわけですが。

本件の在庫消失・毀損に係る正確な損失額については敢えてここでは触れませんが、とてつもなく大きな代償を支払わされることになったのは事実です。

勿論、販売先が付保していた盗難保険で幾許かのカバーはあったと記憶しますが、信用力のない販売先に商品を寄託すると、結局こんな目に遭うという典型的な教訓事例になってしまいました。

その時の取引先の言い分は、確か、見知らぬ第三者に盗まれたというお粗末な回答であったと記憶していますが、事の真偽は定かではなく、非常に後味の悪い結末となってしまいました。

これを契機に、当然、この寄託スキームは廃止となり、更にはその後、滞留している売掛金回収に専心するという姿勢に転じ、売り取引自体の商量を意図的に落として(新規成約を取らない形にして)、取引撤収に向かっていったことを付け加えておきます。そして、最終的には、滞留売掛金についてはテクニカルデフォルトと認定し、信用保険で求償を図ることになりました。

取引先に対して、安易に在庫を預けることのリスクの大きさを決して軽視してはならない、これが今回の最大の教訓です。

以上、3回に亘ってお伝えしてきました過去のギリシャでの債権回収に纏わる教訓事例のご紹介はこれで終了となります。

これまでお付き合い下さりまして、誠にありがとうございました。

リスク管理コンサル 髙見 広行

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