適正な与信限度額の意味するものとは?

さて、本日は与信管理のテーマでお話させて頂きます。

与信管理コンサルをやっていますと、色々な問題が現場で浮き彫りになっていることに直面します。

通常、与信限度(信用限度)は、1社に対して個別に供与されるもので、原則1年に1回見直しが為されることになっています。

1年に1回見直しが為されるということは、この先向こう1年間にかけての売上債権残高予想の推移を事前にチェックして、その残高をカバーできる金額を毎回申請することになり、取引の状況次第では、与信限度額は毎年の見直しで上下に変動することになります。

そうなんです。与信限度額はある営業部の既得権益的な不動の枠ではなく、取引先の信用状況や取引実績&取引見込等を勘案して、常に変動する性質のものであるということです。ここを大きく誤解している営業マンの方が多いと思います。

審査部署の方々も、業務のマンネリ化の中で、特に申請額の妥当性を厳しく精査することを怠っている方々も多いのではないでしょうか?

これは実に大問題です。

与信限度の効用を理解していないばかりか、これでは要員を割いて与信管理業務を行なう意義が大きく薄れてしまいます。

ポイントは、取引先の信用度の如何に拘らず、与信限度額は、「必要かつ十分な金額」を設定するのが原理原則です。

この心は、過度に余分な限度額を設定しないことで、想定外の不審な取引を未然に防ぐ意味があります。例え、優良な取引先が相手だろうとも、不正取引に巻き込まれるリスクは常にあり、取引予定に即した必要な限度額を設定することが原則になります。

そして、十分な金額とは、取引先の信用度・信用力に即して、申請額は妥当な金額になっているか?ということです。赤字垂れ流し、債務超過の先に対して、十分な与信金額とは何か?極論を言えば、与信限度額はゼロであるかもしれませんし、目先の成約残に合わせた必要最低限の金額になるかもしれません。

何故、こんなに窮屈な運用をしなければならないのか?とのご質問に対しては、以下が回答になります。

当初想定していた取引予定以上の取引が突如発生する可能性があることをすぐさま把握する為と、信用力の低い先に対する債権圧縮を行う為の2つということになるでしょう。後者は、限度を使用した債権コントロールという意味で、比較的皆さんにも理解しやすいものと思われます。

他方で、前者のケースでは、信用力に問題のない先に対してそこまで厳格な運用はしなくても良いのでないか?との声も多く聞こえてきそうですね。

そこで実際に過去にあった事例をご紹介しますと、相手先が有力な上場企業で社内格付も高かった為、取引予定に対して膨大な金額の与信額を設定していた先があり、その後ある不正取引(循環取引)に巻き込まれ、結果的に多大な損失を蒙った事例がありました。即ち、例え与信面で問題がない先に対してであったとしても、実際の取引予定と大きく乖離する与信限度を設定してしまっていると、異常な不正取引の発覚に時間を要してしまうということです。仮に、その時、営業部が与信枠が足りない為増額申請を上げる状況にあったならば、その追加取引の内容を審査部署が精査し、その結果不審に思って止めることができたかもしれません。勿論、これはたらればの話ですが。

斯様に、適正な与信限度額を設定することは、与信管理上の大原則になります。

毎年、惰性で同じ金額で与信額を更改している先が幾つもあるとしたら、それは与信限度額の見直しを一度真剣に行う必要があるということになります。

最後に、与信限度は決して硬直的なものではないということを付け加えさせて頂きます。必要かつ十分の原則論に立って、与信限度額の増額が必要な場合には、即座に増額対応を行う必要があるということです。勿論、期中で減額することもあるでしょう。与信限度とは、決して既得権益のような固定的な枠ではなく、必要に応じてアメーバのように増減するものだということです。

与信管理コンサル 高見 広行

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