過去の100%全額出資での買収案件を振り返って思うこと

皆さん、お元気ですか?

さて今回、ブログでは、久々に「与信管理」「リスク管理」の話題について述べさせて頂きます。

テーマは、「100%全額出資での買収案件を振り返って思うこと」、になります。

過去に、私が総合商社でのリスクマネジメント業務の中で、通常の売買売取引に絡む多くの与信案件以外に、いくつかの企業買収案件にも携わり、その買収後のグループ会社での与信管理にも携わってきた経験があります。

国内外を問わず見られるダイナミックな企業買収、中でも投資金額の張る、大型買収に繋がる100%全額出資の事例もいくつかございました。

結論から申し上げますと、残念ながら、事前の入念なデューデリジャンス(投資先企業の財務内容の精査を含む)の実施にも拘らず、多くの100%出資案件は、お世辞にも見事花開いたと断言できるような結果には至りませんでした。

そして、その後、社内において損失の歯止めを重視し、已むなく決断した事業撤退に伴う多額の損失を被ったケースもあり、全額出資案件の難しさを露呈した形になります。

言葉の通り、100%出資という意味は、買収企業を完全にコントロールできる立場に立てることを意味し、事前の株主間の調整や協議等の必要はありません。また買収企業に利益が出れば、その100%分を連結決算上、持分利益として取り込めるメリットがある一方で、逆に多額の損失を計上すれば、その赤字額の負のインパクトを全て蒙ることを意味します。

100%買収案件において、最も重要なアプローチは、買収企業の財務内容・資金繰りに対する綿密な分析、精査が絶対に欠かせないことです。その分析手法として、大手CPAを起用した財務内容精査(デューデリジャンス)を多額の費用を投じて実施するのが通例です。そのデューデリジャンス作業のサポート要員として、審査部・リスクマネジメント部員が駆り出されることもよくあり、私自身も若い頃、よくその作業に従事し、企業の財務分析を行う上で非常に勉強になったという思い出があります。

ただ、デューデリジャンスを実施したからと言って、上記の如く、成功に導かれた事案ばかりではなく、その多くが教訓事例になってしまったという事実を忘れてはなりません。誰が悪いとかいう議論ではなく、過去の経験から言えることは、誰しもがバラ色の事業展開を思い描き、楽観的な視点で買収企業を見てしまいがちであったということです。

企業価値の算定の中で、最も重視される、買収企業の「今後の事業計画の検証・スクリーニング作業」が、企業買収における最も重要な肝の部分になります。KPI(Key Performance Indicator)の選定、適切な各種前提条件の設定に基づき、ベストケース・アベレージケース・ワーストケースの、大まかに言えば、この3タイプの事業計画の策定に基づき、買収企業の価値を弾き出し、その平均値を採って、買収価格を設定することが多いと考えられます。

ポイントは、当該事業計画を策定するのは、基本的には買収企業側(CPAやコンサル等を含む)であって、例え正しいKPIを選定したとしても、恣意的に楽観的な前提条件を設けることで、いくらでも事業計画の数値を上振れさせることができてしまうリスクがあることです。上振れ、イコール、買収価格の上昇に繋がり、その結果、高値掴みをさせられ、最終的な事業撤退時の損失を膨らませてしまうことになるのです。

投資実施ありきの姿勢で臨む事案は勿論のこと、入札、並びに競争相手との競合があるようなケースでは、どうしても落札したい思いが強く出てしまい、買収価格が跳ね上がってしまう傾向にあります。

リスクマネジメント部署に携わる者の役割・機能は、社内での投資案件検討時に、如何に冷静に、かつ客観的な視点で中庸の立場で分析を行い、ワーストシナリオを十分に念頭に置いた上で、適正価格での買収を実現することにあります。

「言うは易く行うは難し」、まさにこの言葉が身に沁みて感じられます。

そして、買収後の重要なステップとして、買収した親会社としての果敢なPMI(Post Merger Integration)の実践を指摘せざるを得ません。所謂、買収後の統合プロセスを指す言葉であり、経営統合、業務統合、意識統合の3段階からなります。特に、買収企業の経営者の主要メンバーが、そのまま残留するようなケースでは、現場での経営の舵取りに関して、きちんと親会社の経営方針・意向が反映されるように、意図的にその方向に持っていく必要があります。

例え、優良企業を100%買収できたとしても、買収後のステップとして実効性あるPMIの履行が為されなければ、親会社への不信、業績の伸び悩み、主要従業員の離反・退社などが起こり、当初思い描いていた事業計画と大きく乖離するケースは実例として多々見られます。

総括しますと、買収前の十分過ぎる程の冷静な事業計画の精査、そして、買収後のPMIの着実かつ速やかな履行の成否が、当該買収案件の行末を決定付けてしまうということになります。


与信管理とは、また一味も二味も違う、企業買収案件の精査・分析業務。

出資を伴う事業案件の成否は、損益面でも多大なる影響を及ぼすことになり、その意味で、リスクマネジメント業務に携わる者にとっては、まさに自分自身の存在感の見せ所になる場と捉えています。

今回、自戒の意味を込め、過去の体験を総合的に振り返り、皆さまに少し私の考え方をシェアさせて頂きました。

Rユニコーンインターナショナル株式会社 代表取締役 髙見 広行

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