商社の法務業務(契約管理業務)の意味するものとは?

日頃よりリスク管理コンサルとして活動をしている中で、お客様から色々なご要望やオーダーを頂くことがあります。当方の主軸となる業務は、あくまでも与信管理業務ですが、それに付随する領域として、契約管理業務についても質問を受ける機会が非常に多いのが実情です。

商社の営業活動を行っていく中で、売上/利益を上げること以上に、リスク管理は極めて重要な任務です。

そして、リスク管理の中でも、とりわけ与信管理と契約管理が双璧を成すもので、どちらも欠かせないものです。

今回は、法務業務(契約管理業務)に焦点を当てて、少し話をさせて頂きます。

商社とは、字の如く、卸業者の総称であり、製造業者であるメーカーとは一線を画します。他方で、消費者と直接接するスーパーや百貨店、家電業界、コンビニ等の小売業界とも一線を画しております。資本系列で、取引先が左右されることもありますが、基本的にはどの資本系列のメーカーや小売業界とも取引をすることができます。いわばフリーハンドの立場です。

そこで、皆さんに質問です。商社が基本絶対に負ってはいけないリスクとは一体何だと思われますか?

まず第一に挙げられるのは、取扱商品の「品質保証リスク」に他なりません。

仕入先であるメーカーとの間で締結する売買基本契約書(買い契約書)の中では、原則、品質保証リスクは仕入先に全てヘッジできる状態にしておくことが原則です。

更に、仮に、一定期間を経過したらメーカー側は品質保証リスクを負うのを免れるとされている場合には、今度は、販売先との間で締結する売買基本契約書上で、同様の規定、即ち当該一定期間が経過したら売主である当社は品質保証リスクを負うのを免れるという趣旨の規定を設けて、当該リスクを右左で繋ぐことにより、リスクフリーを実現する必要があります。

また、製造物責任リスクも、金額のインパクトが大きいことで有名ですが、通常どの会社様でも当該リスクを補填する為の保険に入っているかと思いますが、それだけでは決して万全な対応策とはなり得ません。従い、メーカーという業態ではない商社は、最大限、製造物責任リスクを負わないスキーム作りが必要になってきます。

要するに、商社とメーカーとの一番の相違点は、1)商社は取扱商材の商品数が多いこと、2)商社は様々なメーカーの商品を取り扱うこと、3)商社はメーカーと小売業者の間に介在する中間的なポジショニングになること、等が挙げられます。

契約相手先との力関係で、自社に有利な自社書式の契約雛形を利用できる場合もあれば、自社に不利な相手方書式を強行に突きつけられるケースもあるでしょう。基本、契約締結があって初めて取引が実行できるわけですので、商権の維持や売上拡大の為に、どうしても契約締結のチェック作業が疎かになりがちな営業マンの方が多いかと思いますが、それは大きな問題点です。

何れにせよ、自社のリスクテイクの許容範囲を予め定めて、譲れる部分と譲れない部分の仕分けが重要となってきます。その上で、譲れない部分については、例えば一つの方策としては、覚書(メモランダム)を締結することで、取引基本契約書で負わされる可能性のあるリスクについて一定の歯止めを設けることに繋がります。勿論ハードネゴになるケースも多く、一般的には時間を要する作業になりますが、致し方ありません。

また、海外メーカーから仕入れる場合の契約締結には、とりわけ細心の注意が必要です。取引基本契約は自社書式で締結できるのか?、個別契約には自社書式の裏面約款を付けることができるのか?更には毎回カウンターサインを取得したものを入手できるか?、仮に法的な争いになった場合に、どこの国の法律を適用することになるか?などなど、心配事はこれらに限らず沢山あります。

特に、中国企業との契約に関しては、間違っても中国語だけでの契約締結は行わない事、基本英語ベースで締結することに加えて、争い事に発展した場合に、中国の法律が適用されるような事態だけは絶対に回避しなければなりません。対応としては、日本法がベストですが、少なくとも英米法の概念が通じる世界に持っていく必要があります。

最後に、これはお願い事になりますが、取引相手方から提示された契約書の雛形をそのまま鵜呑みにして、社内の法務部署に対して、契約締結を急かすことだけは絶対にしないで下さい。言わずもがなですが、急いで行うことには常にリスクが付き纏います。取引の機会を逸することを恐れて、どうしてもその時は流されて甘く判断しがちですが、それがその後大きなしっぺ返しとなって返ってくることを忘れないで下さい。

斯様に、商社の法務業務(契約管理業務)とは非常に舵取りが難しく、商社ビジネスに精通したバランス感覚を備えた法務スタッフの存在が必要不可欠になってきます。その辺りの匙加減をアドバイスできる機能も弊社では持ち合わせておりますので、ご用命のある会社様は遠慮なく弊社宛にいつでもご相談下さい。

リスク管理コンサル 髙見 広行

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