仕入先の信用度チェック&買い成約残高管理の重要性を認識しましょう!

前回に続いて、成約残高の管理の重要性について、改めて再認識しておきたいと思います。

前回の投稿でご説明申し上げた通り、販売先に対する成約残高に関しては、有事の際には、対象商品を転売できるかどうかのリスクに行き着くことになります。

他方で、仕入先に対する成約残高は、一体どのようなリスクに辿り着くことになるのか、それを今回は一緒に検証してみましょう。

与信管理上、皆さんの視線はどうしても売り取引の相手先である販売先に行きがちです。勿論、それは間違いではありません。

しかしながら、自社で製造するメーカーという立場でない卸業者(所謂商社)である限り、販売先へ売る商品を、必ずどこかから仕入れてくる必要があります。

ということは、契約対象の物がいつもきちんと納期通りに、指定の場所に搬入され、納期遅延やノンデリが発生しないことが前提条件です。

即ち、そこに、仕入先のパフォーマンスリスクを冷静に見極めると共に、仕入先の信用力のチェックが必要となってくるのです。

販売先同様に、原則、信用調査機関による信用調書等を取得して、決算書の内容を精査する必要が出てきます。

万が一、ノンデリリスクが発生したとなると、大切な販売先からの信頼を大きく損ない、市場でのレピュテーションリスクを蒙るのは、まさに皆さんになるからです。

このことを決して軽視してはいけません。

ただ、大抵の会社様では、仕入先に対するノンデリリスクを認識しつつも、社内の管理制度として枠管理を行っておられるのはごくわずかな例に過ぎないという現実があります。

例えば、船舶取引の中で、船の建造資金の一部を仕入先である造船会社に対して前渡金を打つケースがあります。これはまさに仕入先に対する実与信であり、通常は前渡与信として限度管理を行っていると思います。私自身も、前職の総合商社在籍時代に、数多くの国内の造船会社向けの前渡与信案件に携わり、営業部の方々と数え切れない程の複数の造船会社への訪問調査を実施した経験があります。

今では非常に懐かしい思い出です。

さて、話を本題に戻しますと、仕入先への枠管理の中で、実は最も管理が手薄になりがちでありながら、非常に重要なのが、仕入先に対する「成約管理」になります。

え?ちょっと待って下さい、そんなことまで管理しなければならないのですか?と、いう疑問の声が数多く湧き起こってきそうですね。

答えは、YESです。

ただ、事前に申請して、枠でがんじがらめに管理するというイメージでは決してなく、営業部による自主管理になります。

通常は、買いの成約管理とは、仕入先と契約を締結してから、実際に物の引き渡しを受けるまでの期間における数量と金額の管理になります。単発のスポット契約もあれば、長期契約というケースも想定されます。当然、長期契約の方が管理対象の数量も金額も大きくなります。またその際には、どの販売先に対して紐付いた買い契約なのかを明らかにしておく必要があります。

では、如何なるリスクに備える為に、この仕入先に対する成約管理を行うのでしょうか?

上記で触れた通り、ノンデリリスクに備えることが第一義的にあります。そしてもう一つ踏み込んで考えますと、対象商品の「代替調達リスク」に対応できているか?という点がポイントになってきます。

汎用性の高い、例えば、通常規格のアルミ地金や銅スクラップなどであれば、仮に取引関係のある仕入先が倒産した場合でも、他の仕入先から比較的容易に代替調達は可能ですが、仮に汎用性の低い、特殊な技術力を要する特異な商品であれば、そう簡単には代替調達はできないことになります。

改めて整理しますと、例え高採算を確保できる取引であったとしても、世の中的に、新規に開発されたばかりのニッチな商品で、世界で独占的に製造しているメーカーから調達する類の取引については、特に慎重に仕入先の信用力については、事前に精査・チェックする必要があるということになります。

与信管理とは、前回の投稿でも触れました通り、販売先に対する債権回収リスクのみならず、販売先に対する成約残高を管理することで、約定履行リスクとしての「転売リスク」についても考える必要があったことを申し上げました。

そして、今回は、仕入先に対しても、前渡金のような債権回収リスク以外にも、別途成約残高をきっちりと管理することで、約定履行リスクとしての「代替調達リスク」についても考えを巡らせる必要があるということを指摘させて頂きました。

それにしても、与信管理とは、一体何と奥深いものなのでしょうか?

表面上の債権管理だけでは、不十分であることを露呈した形であり、そこに売り買い共に、成約管理の重要性を強調せざるを得ないのです。

如何でしたでしょうか? 成約管理について少しイメージは湧いてきましたでしょうか?

営業マンの方々にとっては、とにかく実践あるのみです。今日から成約管理を始めてみて下さい。そこには新しい発見があることでしょう。

効果的な与信管理を実践する上で、絶対に欠かすことのできないのが、この成約管理なのですから。

リスク管理コンサル 髙見 広行

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