日本のコンプライアンス問題に対する鈍感さを再認識した今回のジャニーズ事件
突如最近マスコミで賑やかに報道されるようになった芸能界の大御所的存在であったジャニーズ事務所のカリスマ的な元代表者の男性により引き起こされたパワハラ・セクハラに起因する大コンプライアンス問題。
正直、彼の生存中に、今回報道されている問題事象の白黒をはっきりとつけ、被害者に対し、世の中に対し、きちんとけじめをつけておくべきではなかったかと強く感じています。
先日行われたあの意味のない新社長就任記者会見をただただ漫然と長時間放映しているテレビ局各局の方々の姿勢に、辟易としていましたが、公共放送であのような茶番劇を中継して一体何を意味していたのでしょうか?
質問者の中には鋭く過去の問題を突き付け、物事の本質を捉えた視点で質問されている質問者もいなかったわけではないですが、正直どれもこれも出来レースのようなやり取りばかりで、本件の問題の本質を追及する迫力が全く感じられなかったのは残念です。各局のメインキャスターらしき方々が個人的な振り返りの反省コメントを述べるのはいいのですが、それでは全く問題解決には至っていないばかりか、お互いがただ傷を舐め合っているだけのように見えて仕方ありませんでした。
まず今回の事象を総括して、大きな問題点は以下の3つに集約されると感じています。
1)今後、同事務所は経営刷新を実行していく必要があるにも拘らず、何故、会社経営能力のないタレントを内部から昇格させて社長に据える必要があったのか?過去の柵を断つことが最も肝要であるにも拘らず、何故こうしたマスコミ受けする対応になってしまったのか、残念で仕方ない。外部から再建請負人的な社長以下経営スタッフを、まずは受け入れるべきではなかったのか?
2)株主の変更を一切伴わない経営刷新を本気で実行できると思っているのか?最低でも、現株主はマジョリティーから外し、経営の実権を掌握できない体制にすることが最初のステップではなかったか。ましてやこうした由々しきコンプラ問題を長い間放置してきた株主をそのまま残すという神経が全く私には理解できません。
3)すぐに社名を変更する予定がない、という新社長のコメント。まさに今回の問題を引き起こしていた張本人の名前を社名に付けたまま変えずに、事務所の名前として付けておくという神経が全く信じられません。普通は、すぐに変える方向に動くというのが筋ではないですか?
ジャニーズ事務所に所属するタレントとの契約継続の是非についての検証を真剣に行なっているマスコミや映画・広告・雑誌関連の会社はどれ程存在するのでしょうか?個々のタレント自身には確かに問題はなかったにせよ、コンプラ問題を長らく放置してきた会社の社員を、そのまま何事もなかったように継続して起用することに違和感が本当にないのでしょうか?
斯様に、日本におけるコンプライアンス問題に対する感度は非常に鈍いと言わざるを得ません。相手が個人に限定されると比較的素早く対応する事象は多く見受けられますが、今回のように過去から芸能界に一定以上の力を有する知名度のある芸能事務所という組織になると、途端に弱腰の姿勢になるという傾向があったように感じています。
そこで、あの傷を舐め合ったような新社長就任の記者会見中継の話題に戻るわけですが、日本という国は、完全に平和ボケをしているところが多々あると言われますが、本件はその象徴的な出来事であったと強く感じています。
過去に被害にあわれ、これまで誰にも言えない心の傷を抱えながら葛藤して生きてきた方々に対しては、本当に掛けるべき相応しい言葉が見当たりません。
尚、今回の事案を通して一番申し上げたい事は、コンプライアンス問題は決して軽視してはならないという教訓です。
リスク管理コンサル 髙見 広行